認知行動療法で用いられる治療技法の一つです。主にパニック障害や社交不安障害、特定の恐怖症(例:高所恐怖症など)といった疾患の治療に用いられます。エクスポージャーは曝露療法と訳され、その名の通り、恐怖の対象に曝すという治療法になります。これだけ聞いてしまうと、とても治療のようには聞こえないかもしれません。悩んでいる、困っている対象そのものに曝すことが治療とはとうてい思えないかもしれません。
どうして曝すことが治療になるのか?それにはきちんと理由があります。
- 私たちの気分、感情は(自然と)元に戻ろうとする
不安、緊張、恐怖(ここではこれらを総称して不快感とします)といった気分や感情が時間の経過によってどのように変化していくかということは明らかになっています。あるきっかけによって不快感が生じると、数秒から数分でピークに達します。上がり続けないということも特徴の一つです。非常に強い不快感ですが、ピークがあり、その後横ばいになります。そして、そのまま強い不快感が続きますが、ある時点から元の水準に戻ろうとします。戻り始めるまでの時間は5分~15分とされています。そこから、多少の強弱の波はありながらも、次第に元の不快感の水準に戻ります。戻りきるまでは最大で90分とされています。

私たちの不快感は何もしなくても、100分前後で、自然と元に戻るのです。怖い、苦手と感じている場面やある対象に思い切って飛び込んでみる、挑戦してみることが治療として有効な理由の一つです。
しかし、ここで疑問が生じます。例えばジェットコースターが苦手な場合、理論上は100分前後で不快感は下がります。しかし、それだけの時間走り続けているジェットコースターはないでしょう。また、それだけの時間乗り続けた場合、異なる理由で不調になる可能性が高いです。すると、ジェットコースターにはこの理論は当てはまらないかというと、そうではありません。時間的に十分ではなくとも、反復することで不快感のピークは減少すること、戻る時間も早くなることが分かっています。この理論はいわゆる「慣れる」ということを指しています。
また、別な疑問も生じます。場面や対象によっては同等の時間、もしくはそれ以上の時間が経過しても、不快感が減らなかったという体験もあるでしょう。なぜ、理論通りに減少する体験をできなかったのか?それは環境や状況の変化が関わります。例えば、交通機関を利用していると、人の乗り降りがあったり、到着の遅延が生じるなどの環境や状況といった、条件の変化が度々生じます。先ほどの自然な元通りの原理は1条件につき1つ生じます。そのため、その後の条件の変化毎に、元通りの原理が1つずつ生じてしまうことで、長時間たっても不快感が続く体験をしてしまうことがあります。区別することは難しいですが、最初の不快感とその後の不快感を生じさせているきっかけは別なものなのです。ただ、経験としては交通機関で不快感が生じた体験と一つにまとめられてしまいます。
- 回避は命を守るために重要な機能。なので、不快感を保存する
もう一つのポイントは、回避という機能が関係します。回避とは動物に備わった機能であり、脅威に遭遇した際に取る行動になります。回避は命を守る上でとても重要な機能であり、なくてはならない行動です。回避は恐怖や不安などの不快感と共に生じるのですが、命を守るという機能上、ある特徴があります。それは脅威から遠ざけるために不快感を保存するというものです。

回避をすると不快感は短時間で低下しますが、恐怖や不安、緊張といった不快感が生じる場面や対象を避けると、その不快感は保存され、持続していってしまいます。これが繰り返されると徐々に不快感が強くなっていってしまいます。
この2つの理由から、私たちは苦手な場面や恐怖の対象を避けることで、不快感が保存され、同時に不快感が自然と低下していく体験を逃していることで、困難が持続していると考えられています。そのため、場面や対象を避けることなく自然と低下する体験を繰り返すことで困難は克服できるということです。これが、エクスポージャーが有効である理由となります。
ただ、困難を抱えている人のほとんどは、その場面や対象を全く避けているわけではなく、時に遭遇する体験もしています。しかし、困難は続いていることがほとんどです。これは、十分な時間経過を体験していないこと、反復が乏しいためと考えられます。そのため、エクスポージャーでは、十分な時間を体験すること、さらに繰り返すことが効果のカギとなります。
治療法としては実際にどのように進行していくかというと、まずは困難を感じている場面や対象をピックアップするところから始めます。困難を感じたり、できるようになると良いと感じることをできるだけ具体的にピックアップします。ピックアップが終わったら、それぞれの不快感の強さを評価していきます。それを不快感の強さ順に並び替え、表にします。これを不安階層表と呼びます。階層表ができたらどのレベルのものから挑戦するかを話し合い、実際に挑戦し、その結果を評価することを繰り返していきます。挑戦するやり方は、いくつかの方法がありますが、お勧めするのは中間あたりの不快感から始めることです。低い方が挑戦しやすいですが、不快感が弱すぎると、効果も弱くなります。かといって、強いものからはとてもできそうには感じられません。そのため、真ん中あたりの不快感のものから順に取り組むようにします。
実際に挑戦する際は不快感の程度の変化に注目するようにします。私たちは時に不安がある・ない、とか緊張している・していないといったように2分で考えてしまうことがあります。この評価の仕方だと、先ほど示した図のように気分が変化していたとしても、どの時点でも不快感は「ある」ということにしかなりません。不快感をその程度でみるようにし、ちょっとした変化にも気づけるようになることを目指します。
段階的に挑戦し、徐々に気分は低下するという体験を積み重ね、さらに不快感が強いものを克服していくことを治療者のサポートのもと進めていくのがエクスポージャーという治療法になります。
この治療法はとても効果的ですが、苦痛を伴う治療であることも否定できません。そのため、本当に克服が必要な場面や対象であるかということも考える必要があります。先ほどの例のようにジェットコースターが怖くて乗れないことは私たちの生活上は支障にならないことが多いです。このように克服することで生活が良くなるかどうかという発想から、取り組むかどうかを考えることも必要です。その点を踏まえた上でも、克服することが有益と判断された場合には、治療者と共に、サポートを受けながら取り組んでいくことで症状緩和、コントロールを身に着けていくことが可能です。

